【ふたりソロキャンプ】第3話感想：「ギア沼にご用心」が描いた“教えること”の不器用な優しさ

たとえばそれは、焚き火の炎のような記憶でした。

ひとりでいられる時間が、誰かと重なることで揺らいでいく──『ふたりソロキャンプ』第3話「ギア沼にご用心」は、そんな“気づかれにくい変化”を、あくまで静かに描いています。

誰かに何かを教えるということは、過去の自分と向き合うことでもある。
雫の前向きな行動の裏で、厳の心が少しずつ動いていく、その“準備期間”のような1話でした。

今回は、そんな第3話を、「誰かの思い出に触れるような」やさしい視点で読み解いていきます。

第3話「ギア沼にご用心」あらすじ｜それぞれの週末、それぞれの距離感

この回は、ふたりが“別々に過ごした週末”が描かれます。
ただしそれは、決して「すれ違い」ではありませんでした。むしろ、お互いが見えない場所で、“相手を思っていた”という、静かな繋がりの話です。

草野雫は、キャンプのことがまだよくわからないなりに、前回の出来事が忘れられず、友人たちとの食事の中でふと「また会いに行こう」と思い立ちます。
それは衝動にも見えるし、でもどこか、“何かを大切にしたい”という、まっすぐな気持ちの表れにも見えました。

一方、厳（げん）は、久しぶりのひとりキャンプへ。
雫とは違い、慣れた手つきで道具を並べ、火を起こし、調理を始めます。けれどその手つきの中に、少しだけ「迷い」がありました。
焚き火の炎に映るのは、亡き父との記憶。そして、自分に向けられた「誰かに教えてやれ」という言葉。
それが今、雫という存在と重なってくるのです。

ふたりの時間は交わらなかったけれど、どちらの中にも、たしかに「相手の影」がありました。
それは、“言葉にならない関心”や“名前のつかない優しさ”のようなもの。
第3話は、そんな目に見えない距離感を、穏やかにすくい上げた回でした。

焚き火と父の記憶｜「教えること」にこめられた厳の静かな情

焚き火は、心の奥にしまった記憶を、そっと呼び起こす装置なのかもしれません。

第3話で描かれた厳のソロキャンプ──そこには、静けさと孤独の中に、確かに“誰かの面影”がありました。
キャンプ道具を手際よく並べるその背中に、かつて父親から受け取った時間が滲み出しているようで。
「いつか誰かに教えてやれ」と言われたその言葉が、今になって雫という存在と響き合いはじめていることが、言葉ではなく所作で伝わってきます。

たぶん厳は、“誰かと分かち合う”ということに慣れていない。
だからこそ、雫のような存在は、彼にとって「戸惑い」でもあり、「責任」でもあるのでしょう。
けれどその戸惑いの奥には、焚き火のようにゆっくりと燃える“情”があります。
彼が「また一緒に来たいと思うようになるには時間がかかる」と語る場面に、それがにじみ出ていました。

教えるというのは、上から与えることじゃなくて、自分の中にある“誰かからもらったもの”を、そっと手渡すこと。
厳が少しずつ、過去と向き合いながら、その手を伸ばそうとしていることに気づかされたエピソードでした。

雫の一歩、「行ってみるね」｜友人たちがくれた背中の押し方

「行ってみるね」──その一言には、きっと、たくさんの気持ちが詰まっていたと思います。

キャンプを始めたばかりの雫にとって、厳の存在は“先生”であり、“ちょっと怖い人”でもありました。
でも同時に、あのキャンプで過ごした一晩が、彼女の中に小さな火種を残していたことも確かで。
その火を、再び灯してくれたのが、さやと瑞希──二人の友人たちでした。

「会いに行ってみたら？」「週末、ショップにいるかもよ？」
その言葉は、ただの助言ではありません。
雫という“臆病だけどまっすぐな女の子”の背中を、そっと撫でてくれるような、やさしい後押しでした。

だからこそ雫は、自分の中の迷いに蓋をして、「行ってみるね」と言えた。
それは、恋とか友情とかを超えた、“誰かとの記憶を大切にしたい”という気持ちの表れだったと思います。

行動力とは、何かを断ち切る強さではなく、何かを「続けたい」と思える気持ちの強さかもしれません。
雫の一歩には、そんな“続けたい気持ち”がちゃんとあった。
第3話のこの小さな決断は、物語の風向きを変える、大切なひとしずくでした。

“ギア沼”という誘い｜キャンプ用品がつなぐ、心の余白

「ギア沼にご用心」というタイトルには、ちょっとしたユーモアが込められています。
でも本当は、その“沼”にハマっていく過程こそが、誰かとの距離を縮める手段だったのかもしれません。

雫が訪れたのは、厳が働くアウトドアショップ。
ぎこちない空気の中でも、彼女は店内のギアに目を輝かせます。
テント、焚き火台、クッカー──ひとつひとつに、未知への興味と、“教えてもらった時間”の余韻が詰まっていて。

彼女にとってギアは、ただの道具ではありません。
それは、厳との時間を思い出す鍵であり、自分がこれから踏み出す世界の手触りでもある。
キャンプに必要な“モノ”を選ぶという行為が、やがて“誰かとの時間を育てる準備”になっている──そんな風に思えました。

ギアという“物語のない物”が、ふたりの間に“静かな物語”を生む。
それが、この回のもうひとつの見どころでした。

そしてたぶん雫は、ギア沼に落ちていくのではなく、
「誰かと過ごす時間の重さを、ちゃんと手に持ちたくなった」だけなのだと思います。

ふたりの距離が変わる前に｜第4話への静かな伏線

第3話で描かれたのは、「ふたりが一緒にいなかった時間」でした。
でも、それは決して“空白”ではなかったと思います。
むしろその間にこそ、ふたりの間にあるものの“形”が、少しだけ見えてきたような気がするのです。

雫は、ちゃんと自分で「行く」と決めた。
厳は、誰にも言わないまま、あの焚き火でひとつの記憶を抱き直していた。
そのふたつの動きは、まだ交わってはいないけれど、確かに同じ方向へと進んでいます。

次回、ふたりがまた出会うとき、そこには「前とは違う何か」があるかもしれない。
でもその変化は、大きな展開やドラマチックな事件ではなく、
きっと、“気づかれにくいまま、でも確かにある距離の変化”なんだと思います。

それを、ちゃんと描けるアニメは、そう多くはありません。
『ふたりソロキャンプ』はその稀有な一作として、
“変わる前の静けさ”を、こんなにも丁寧に切り取ってくれました。

第4話では、その静けさがどんな風に波紋を生むのか。
ただの「再会」ではなく、「歩み寄る心」が見えると信じて、待ちたいと思います。

まとめ｜“ソロキャンプ”に重ねられた、誰かの気配

第3話は、「ふたり」が同じ画面にほとんど登場しませんでした。
けれど、その不在こそが物語っていたのは──ふたりの間に“もう、誰かの気配がある”ということでした。

焚き火に照らされた過去。
キャンプギアに見出した未来。
それぞれが、それぞれの場所で、心の中に相手の輪郭を思い描いていた──
その静かな時間の重なりにこそ、『ふたりソロキャンプ』という作品の魅力が宿っている気がします。

人は、誰かと過ごした記憶を、あとからやっと“優しさだった”と気づくことがあります。
そしてその記憶は、ときに焚き火のように、心の奥を温め続けてくれるのだと、厳と雫の時間が教えてくれました。

「キャンプって、ひとりでもいいけど、誰かがいるとちょっと違う」
その微妙な“違い”を、ちゃんと見つめてくれるこのアニメが、今、とても大切に思えます。

次回からはきっと、ふたりの距離が少しずつ近づいてあｃいくはずです。
でもその前に──この“そっと触れた回”を、ひとりで噛みしめていたい。
そんな余韻の残る第3話でした。