“忍者”と“殺し屋”の百合共同生活！？話題のアニメ『忍者と殺し屋のふたりぐらし』を徹底レビュー

「愛って、こういうことなのかもしれない」
そう思ったのは、手を繋いだ瞬間でも、キスを交わした瞬間でもなかった。
“この人と一緒に朝を迎える”──たったそれだけのことが、どうしようもなく愛おしいと感じたときだった。

2025年春、そんな“ささやかな共生”のかたちを描くアニメが静かに放送を開始した。
タイトルは『忍者と殺し屋のふたりぐらし』。ぱっと見は、くノ一と女子高生殺し屋のシュールな同居コメディだ。
だけど観ていくうちに気づく。これはただのギャグじゃない。
殺すことと生きること、逃げることと寄り添うこと──そんな“人生の選択肢”を、ふたりの少女が自分たちなりに模索している物語なのだ。

異色のバディが織りなす、百合とダークコメディとほんの少しの哀しさ。
この記事では、その魅力をできるだけ丁寧に、あなたの心に寄り添うように解きほぐしていきたい。

『忍者と殺し屋のふたりぐらし』とは？｜基本情報とあらすじ

『忍者と殺し屋のふたりぐらし』は、ハンバーガー氏原作の漫画をアニメ化した2025年春の新作で、制作はあのシャフト。
スタイリッシュで感情の“間”を大事にする演出は、過去の名作群にも共通する手触りがある。
放送は2025年4月10日からスタートし、TOKYO MXやBS11、dアニメストアなどで視聴可能だ。

物語は、忍びの里から抜け出した元・くノ一、草隠さとこが、街中で行き倒れていたところから始まる。
そんな彼女を拾ったのは、ひとり暮らしの女子高生・古賀このは。
だがこのはの正体は、“殺し屋”だった──。

忍者と殺し屋。言葉にすればハードな肩書きだが、実際のふたりはとても人間くさい。
社会の枠から外れた存在が、互いの傷を隠しながらも、少しずつ距離を詰めていく。
生活音が重なる小さな部屋の中で、食事をし、洗濯をし、たまにケンカして──それでも離れないふたりの姿は、単なる“異色の同居もの”ではなく、“寄り添いの物語”として静かに心に沁みてくる。

設定は奇抜、だけど描かれるのはとても普遍的な“さびしさ”と“あたたかさ”。
そんな温度差こそが、この作品の魅力の核なのかもしれない。

豪華キャストが光る！花澤香菜・三川華月らの演技に注目

アニメにおいて、“声”は感情を運ぶいちばん繊細な表現手段だ。
『忍者と殺し屋のふたりぐらし』は、その“声”の力を最大限に活かしている作品でもある。

まず注目すべきは、殺し屋・このはを演じる花澤香菜。
彼女が見せるのは、明るく元気な女子高生の仮面と、その奥に潜む孤独や苛立ち、虚無感のゆらぎだ。
テンポのいいツッコミ、微妙な間、無言のため息──そのすべてが、このはという少女の「心のノイズ」を浮き彫りにしている。

対する忍者・さとこ役は、新人ながら確かな演技力を見せる三川華月。
言葉数が少なく、どこか浮世離れした存在感のさとこを、彼女は息づかいのような繊細なトーンで演じている。

何気ない「……ん」や「このは、すごいなあ」が、まるで胸の奥に直接語りかけてくるようで、聞いているこちらの心がふっと緩む瞬間がある。

さらに脇を固める声優陣──芹澤優、喜多村英梨、大久保瑠美らも実力派揃い。
それぞれのキャラにしっかりとした“輪郭”を与え、物語に彩りと奥行きを添えている。

このアニメを語るとき、映像美や脚本だけでなく、「耳に残る声の温度」もぜひ感じてほしい。
それは、キャラクターという存在を、フィクションの外にまで連れてきてくれる魔法だから。

“百合”の香りが漂う日常と非日常の狭間｜感情の描写に注目

『忍者と殺し屋のふたりぐらし』が“百合アニメ”と呼ばれることがある。
けれどこの作品において、その言葉は恋愛を指すためのラベルではない。
むしろ、「誰かと一緒にいてもいいんだ」と思えることの尊さ──その曖昧で、でも確かな“絆”の温度にこそ、百合の香りが滲んでいる。

さとこは、世界を知らない。
このはは、世界を知りすぎている。
そんなふたりが同じ部屋で暮らし、互いの隙間を少しずつ埋め合う様子は、まるで傷と傷が寄り添うようだ。
日常の何気ない食卓、肩を並べて観るテレビ、ふとした寝言や沈黙──
どの瞬間も「これは好きなのかもしれない」「でも名前がつけられない」という感情が流れている。

特に印象的なのは、何度も繰り返される“触れない会話”。
このはが冗談めかして言う「さとこ、あんたほんと変なやつだな」には、苛立ちと甘えが混ざっていて、
さとこがポツリと返す「……うん。でも、ここにいてもいい？」は、心の奥底からの祈りのように響く。

これは、恋に落ちる物語ではない。
けれど、心が落ち着く場所を見つける物語だ。
そしてそれは、どんなラブストーリーよりも深く、あなたの“孤独”に優しく触れてくるかもしれない。

シャフト演出×ダークコメディ｜映像とテンポの心地よさ

シャフトといえば、やはりあの“間”だ。
空間にぽつんと佇むキャラ、静止する背景、ふと差し込まれる記号的カット。
『忍者と殺し屋のふたりぐらし』でも、その演出哲学は健在で、作品の“静かな狂気”を際立たせている。

たとえば、さとこの無表情な顔が長回しで映されるシーン。
画面の情報は少ないのに、なぜか視線を引き寄せられてしまう。
あるいは、このはが誰かを無表情で始末する瞬間の、音の消失。
笑いを誘うようなテンポのなかに、ふと“ぞくっ”とする静寂が入り込む──
この不穏なリズムが、まさにシャフトらしさなのだ。

ギャグとシリアス、殺しと日常、そのギリギリの境界を歩く作品だからこそ、演出の呼吸がすべてを左右する。
速すぎても重すぎてもバランスが崩れるなかで、本作は驚くほど軽やかにそのバランスを保っている。
これはきっと、映像とセリフの「呼吸」が整っているからだ。観ていて、気持ちいい。
決して派手ではないのに、何度も繰り返し見たくなる──そんな映像体験がここにはある。

視覚的な刺激や派手なアクションだけじゃない。
“間”と“空白”の力で、こんなにも世界観を語れることを、あらためて思い知らされた。
それが、シャフトの底力であり、本作の“空気”そのものだ。

『忍者と殺し屋のふたりぐらし』は“癒し”か“刹那”か？｜観た人の心に残るもの

観終わったあと、胸に残るのは、言葉にできない温度だった。
それはたしかに“癒し”だったのかもしれないし、逆に“刹那”だったのかもしれない。
だけど、どちらにせよ心が少しだけ軽くなっていた。
それがこの作品の、最大の余韻かもしれない。

SNSにはこんな声が並ぶ。
「思ってたより静かで優しい」「なんでもない会話に泣けた」「一緒にご飯食べてるだけなのに、うらやましいと思った」
多くの人が、このふたりのやり取りの中に“自分がほしかった何か”を見ているのだ。

さとこは誰にも頼れなかった過去があり、このはは誰も信じないように生きてきた。
ふたりとも、自分の命を軽く扱う癖がある。
だけど、そんなふたりが一緒に朝を迎え、鍋をつつき、たまに黙って並んで歩くだけで、
少しずつ「死なない理由」が生まれてくる。それが、どんなにささやかでも“生きる”ということなのだと思わされる。

この作品に、大きなカタルシスはない。
世界は変わらないし、ふたりの人生も劇的には動かない。
でも、その何も起きない時間こそが、尊くて、尊くて、泣きたくなる。
私たちの日常もまた、そうやって続いているのだから。

まとめ｜“異色”だけど“必然”なふたりの物語

『忍者と殺し屋のふたりぐらし』は、ジャンルとしては異色の組み合わせだ。
忍者と殺し屋。ギャグとシリアス。百合とサバイバル。
でも、そのどれもが“仮面”ではなく、ふたりの少女が世界とどう向き合うかを真剣に描くための装置だった。

さとことこのはの関係は、恋愛では語りきれない。
それは“孤独を知っている者同士”が、互いの存在に少しずつ安心していく過程だ。
ただ一緒にいること。息をして、目を合わせて、ご飯を食べて、笑って──それだけで誰かの人生が変わってしまうことだってある。
それが、このアニメが静かに教えてくれる希望だ。

派手な展開やわかりやすい感動ではなく、「生きるって、こういうことかもしれない」と思わせてくれる物語。
だからこそ、この“異色のふたりぐらし”は、いまこの時代にこそ“必然”だったのだと思う。

きっとあなたの心にも、誰かと過ごした静かな時間が思い浮かぶはずだ。
それが“愛”なのか“友情”なのかは、もう関係ない。
それを“手放したくなかった”と、思えたことこそが──大事な感情なんじゃないだろうか。