「魔法があっても、人間関係のトラブルまでは防げない──」
そう気づかせてくれるアニメが、2025年春、静かに笑いとともにやってきた。
『ウィッチウォッチ』。
ギャグで包んだ青春と、呪文で彩った日常。
だけどその中心にあるのは、誰かと“いっしょに生きること”の難しさ、そして温かさだ。
原作は篠原健太。『SKET DANCE』や『彼方のアストラ』で、何度も人の“心の揺れ”を描いてきた名手が、本作でもやっぱり裏切らない。
鬼の血を引く守仁（もりひと）と、魔女の力を持つニコ。
魔法があるのに、うまくいかない。
魔法があるからこそ、ちゃんと向き合わなきゃいけない──そんな“青さ”が、胸をじんわりとあたためてくれる。
この記事では、話題の「ニュー ホライズン」編や発行部数の推移、そして空知英秋との不思議な共鳴まで。
“笑えるのに泣ける”、その理由をひとつずつ、言葉にしていきたい。

『ウィッチウォッチ』アニメ基本情報──2025年春、魔法と笑いが帰ってきた

2025年4月。
春アニメのなかで、ひときわ“やかましくて、やさしい”存在感を放っているのが、『ウィッチウォッチ』だ。
MBS／TBS系の「日5枠」で放送されているこの作品は、全26話（2クール）で展開される本気のアニメ化。
制作を手がけるのはバイブリーアニメーションスタジオ。
監督は博史池畠、シリーズ構成には赤尾でこと、ギャグも青春も泣かせもできる手練れが集まっている。

オープニングはYOASOBIの「Watch Me!」。
この選曲がまた最高で、「私を見てよ」と歌うその声が、魔女ニコの気持ちとまっすぐ重なる。
エンディングのAoooによる楽曲も、日常の余韻を優しく包み込んでくれる。
原作の“忙しすぎるテンポ”をアニメならではの間合いで再構築し、1話ごとに新しい笑いと小さな感動が宿る。
そして何より、声があることで、ニコと守仁の“ぎこちなくて愛おしい関係”が、よりリアルに響いてくる。
魔法よりも、たぶん「言葉」の方が人を動かす──そんなことを、ふと思わされる。

空知英秋も注目？篠原健太が描く“ジャンプの正統”とは

“ジャンプの正統”なんて言い方、ちょっと野暮かもしれない。
でもそれでも、『ウィッチウォッチ』を語るときに、やっぱりこの言葉が浮かんでしまうのはなぜだろう。
篠原健太。
彼が描く物語には、いつも“ふざけた真面目さ”がある。
ふざけて笑わせながら、気づけばこっちの心の中に、ちゃんと何かを置いていく。

『SKET DANCE』では、笑いの中に誰かの痛みを紛れ込ませていた。
『彼方のアストラ』では、SFとサバイバルの奥に「家族とは何か？」という問いがあった。
そして今作『ウィッチウォッチ』では、魔法とギャグを駆使しながら、「ひとりで生きられるけど、ふたりでいたい」そんな不器用な人間関係を描いている。
こういう“ちょっとおかしくて、すごく優しい”物語を描ける作家って、今のジャンプでは本当に貴重だと思う。

実際、かつて『銀魂』で異常なまでのギャグと情熱をぶつけた空知英秋も、篠原作品への言及をたびたびしている。
空知がもし“後輩”にバトンを渡すとしたら、その手は、篠原に向かっているかもしれない。
ギャグで泣かせて、魔法で笑わせる。
そんなアンバランスな優しさが、ジャンプの「次」をちゃんと継いでくれている気がする。

発行部数は右肩上がり──なぜ『ウィッチウォッチ』は読者を掴むのか

ジャンプ連載作のなかで、『ウィッチウォッチ』は派手なバトルも、壮大な世界観もない。
でも、不思議なくらい、読むたびに“ちょっと救われた気持ち”になる。
それって、たぶん──誰も置いていかないから、だと思う。

魔女ニコの魔法は、いつも少し失敗する。
守仁の優しさは、不器用で伝わりづらい。
でもその“うまくいかなさ”にこそ、読者は心を重ねる。
どこかドジで、どこか過保護で、だけど一緒にいることだけは絶対にやめない。
そういうキャラたちの姿に、人はきっと「自分のこと」を見つけるのだ。

2021年の連載開始当初からじわじわと人気を伸ばし、発行部数は安定して右肩上がり。
飛び抜けたヒットではないけれど、「この漫画を手放したくない」と思う読者が確実に増え続けている。
それはつまり、“誰かにとっての居場所になっている”という証拠だ。
ギャグ漫画が、人生の“避難所”になることだってある。
そして『ウィッチウォッチ』は、その役目をちゃんと引き受けている。

“ニュー ホライズン”って何？物語の転機とアニメ版の描写

『ウィッチウォッチ』のファンなら、きっとどこかで聞いたことがあるはず──“ニュー ホライズン”。
それは物語の中で、ニコと守仁、そして仲間たちの関係性が“ただのドタバタ”から、“共に進む選択”へと変わっていく、大きな節目だ。
それまでのエピソードが“日常に魔法が混ざっただけの毎日”だったとしたら、ここからは“魔法が人生に干渉し始める”。

ニュー ホライズン編では、これまでふわっと描かれていた“魔女としての運命”や“鬼としての力”が、いよいよ彼らの未来に影を落としはじめる。
「いつか離れなければならないかもしれない」という予感。
「隣にいること」が当たり前じゃなくなる現実。
それは、思春期の恋と友情に“時間”という概念が差し込まれる瞬間でもある。

アニメ版では、色彩のトーンや演出の間合いが、この変化をよりドラマチックに描いている。
背景の夕焼けが深くなり、セリフの隙間に静寂が生まれはじめる。
この「静けさ」は、まさに“ニュー ホライズン”の核心だ。
何が変わったのか、言葉ではうまく説明できない。でも、胸がザワつく。
その違和感が、きっと「青春」という時間の本質なんだと思う。

キャラの魅力と声優陣──ニコと守仁、ふたりの“いま”

若月ニコと乙木守仁（もりひと）。
このふたりを「魔女と鬼」なんてファンタジーの枠で括ってしまうのは、少しもったいない気がする。
彼らの魅力は、むしろ“人間らしさ”にある。
無邪気で頑張り屋で、でもちょっと空回り気味なニコ。
クールで真面目なのに、時々とんでもなくポンコツな守仁。
この絶妙な距離感が、なんとも愛おしい。

アニメになって、彼らの“間”がさらに立体的に伝わってくるようになった。
ニコ役の声優・若山詩音は、明るさの奥にある繊細さを声でしっかりと表現している。
ただ可愛いだけじゃない。
「どうしても伝えたい」「でも伝え方がわからない」──そんな葛藤が、ふとした一言に滲む。
だからこそ、たまに素直になれた時の言葉が、心にすっと届く。

一方の守仁を演じるのは、伊東健人。
その低めで落ち着いたトーンは、彼の誠実さと不器用さのバランスを見事に演じきっている。
不意に見せる照れや、感情のゆらぎ。
それが“静かな声”だからこそ、余計に響く。
ふたりの声が交わるたび、「この関係が壊れませんように」と、観ている側が祈りたくなってしまう。

まとめ：『ウィッチウォッチ』は、“ギャグ”の皮をかぶった青春成長譚だ

パッと見は「ドタバタ魔法コメディ」。
でもその実、『ウィッチウォッチ』は“ギャグ”というカモフラージュを纏った、正真正銘のセイシュンモノだ。
大切な人と一緒にいることの難しさ。
気持ちを言葉にする怖さ。
そして、未来がどうなるかわからないからこそ、“今この瞬間”がどれだけ大切なのか──
笑ってる間に、そんなことをそっと教えてくれる。

マホウも、オニの力も、きっとただの“きっかけ”だ。
この物語がほんとうに描きたいのは、「誰かと一緒に笑って生きること」の奇跡。
何気ない日常に潜む、ちょっとした奇跡のカケラ。
それをギャグのテンポで差し出してくるこの作品は、まさにシノハラケンタ流の“ヒューマンファンタジー”だ。

『ウィッチウォッチ』。
ただの笑えるアニメとして観たっていい。
でも、もしあなたが「最近うまく笑えてない」と感じているなら──この物語に、少しだけ心を預けてみてほしい。
気づけばきっと、“守られていたのは自分の方だった”と、思えてくるから。