『公女殿下の家庭教師』第1回人気投票の結果が示す、“物語の中で選ばれた想い”

ライトノベルにおけるキャラクター人気投票は、単なるランキングではないと、僕は思っています。
それは“誰の感情が、いちばん深く届いたか”という記録だからです。

『公女殿下の家庭教師』で行われた第1回キャラクター人気投票──
そこで一位に輝いたのは、あの剣姫、リディヤ・リンスターでした。

このページでは、投票結果を振り返りながら、
なぜそのキャラクターが“選ばれたのか”を、そっと拾い上げてみたいと思います。

それはたぶん、ただの人気順ではなくて。
読者が作品の中で、誰の孤独に寄り添い、誰の成長に心を預けたのか──
そんな“記憶の断面”なんです。

人気投票の概要──『選ばれる』という物語の一幕

2021年の春、ある静かな“選挙”が行われました。
『公女殿下の家庭教師』の第1回キャラクター人気投票。
それは公式サイトで開かれた企画でありながら、どこか手紙を書くような、内なる気持ちをそっと託すような…そんな時間だった気がします。

投票期間は2021年3月18日から4月19日。
発表は同年5月20日。
ひとつのボタンを押す行為が、作品へのまなざしを結晶化させていったその数週間。
僕らは“誰かを応援する”という名の、物語の裏側にあるもう一つの物語を紡いでいたのだと思います。

この投票は、ただの「キャラの人気比べ」ではありません。
それぞれのキャラクターが歩んできた道、抱えてきた傷、時に見せた笑顔──そういったものに読者がどんな共鳴をしたかを、そっと映し出す鏡でした。

“物語の中で、誰に自分を重ねたのか”
“誰の台詞が、夜を越える力になったのか”
そんな問いに、読者自身が答えを出した時間だったのです。

そして何より、この企画の美しさは、作者である七野りくさんが、その“ひとりひとりの選択”に応えるように、
第1位となったキャラクターに書き下ろしの短編を贈ってくれたことです。

選ばれることは、光を浴びることじゃなくて。
誰かひとりの心に、確かに届いていたということ。
この人気投票は、それを静かに証明していたのだと思います。

第1位はリディヤ・リンスター──“剣姫”に宿った静かな共感

第1回キャラクター人気投票──その頂点に立ったのは、
四大公爵家の長女にして、“剣姫”と呼ばれた少女、リディヤ・リンスターでした。

一見すれば、強さの象徴です。
剣の才に恵まれ、家柄に背を向けながらも誰よりも真っ直ぐに戦場を駆ける彼女。
でも、そんな彼女を一位に選んだ人々の中には、おそらく“強さ”だけではなく、
その奥にある「震えるような誇り」と「言葉にならない孤独」を見ていたのではないでしょうか。

彼女はずっと、“守られる側”ではなかった。
誰よりも先に前へ出て、“守ること”を選んできた。
だけど、それは決して誇らしげなヒロイズムではなく、
「自分でないと、誰もやらないから」という、ある種の諦めにも似た覚悟だったと思うんです。

読者はきっと、その“静かな決意”に気づいていた。
だからこそ、リディヤの名前に票を入れた。
彼女の孤独な背中に、自分自身の記憶を重ねた人もいたのかもしれません。

そしてもう一つ。
彼女の“恋”が、少しずつ輪郭を持ち始めたあの物語の中盤、
初めて弱さをさらけ出すその姿に、きっと多くの人が「好きだ」と思ったはずです。

リディヤ・リンスター──
彼女が1位になったことは、人気の結果というよりも、
“誰よりも言葉になりづらい感情を抱えていた人”が、ちゃんと届いたという証だった気がします。

それはたぶん、キャラクターとしての勝利じゃない。
共鳴としての、ささやかな祝福だったのだと思います。

2位・ステラ、3位・リリー──それぞれの光を放つヒロインたち

第1位・リディヤの背中を追うようにして、2位と3位に名前を刻んだふたりのヒロインがいます。
ステラ・ハワード、そしてリリー・リンスター。
このふたりの存在は、まるで物語に射し込む“異なる光の角度”のようでした。

ステラは、外から見れば「完璧な令嬢」です。
成績優秀で、生徒会長という肩書きを持ち、ハワード家の誇りを背負う立場。
でもその中には、つねに自分を律しすぎるがゆえの“痛み”がありました。
それは「期待に応えること」を習慣にしすぎて、自分の心を後回しにしてきた人間の表情です。

だから、読者は気づいていたのだと思います。
あの一瞬一瞬の強さの裏に、どれだけの緊張と疲弊があったのかを。
そして、彼女がほんの少しだけアレンの前で心をほどいていく姿に、
「救われてほしい」という気持ちが自然と芽生えていたのかもしれません。

一方のリリーは、リディヤの妹という立ち位置でありながら、
“姉とは違うかたちで世界に立ち向かう”ことを選んだ少女でした。
剣ではなく、知識と冷静な判断力で。
強さではなく、繊細な優しさと観察力で。

リリーの魅力は、派手さではない。
でも、どの場面でも彼女は「足りないものを補う」というかたちで物語を支えていた。
それはまるで、沈黙の中で誰かにそっと差し出される温かい紅茶のような、
そんな優しさでした。

ステラも、リリーも。
まったく違う輪郭を持ちながら、それぞれの方法で“誰かを守る”選択をしてきた。
そして読者は、それをちゃんと見ていた。
誰もが声を大にして言うわけじゃなくても、心のどこかで「好きだ」と思える存在──
それがこの2位と3位の意味だと、僕は思います。

主人公・アレンの存在──“支える者”が愛される理由

人気投票の結果でアレンが第4位というのは、
“主役だから当然”というよりも、
「この物語において、“支える者”がどれだけ尊いか」を、
読者ひとりひとりがちゃんと知っていた証だと思います。

アレンという人物は、派手ではありません。
剣を振るうわけでも、大声で正義を語るわけでもない。
けれど彼の立ち位置は、常に“誰かのために”という一点に支えられていました。

公女を導く家庭教師。
王国の命運を背負いながら、表に立たず、裏から支える役割。
それは、“自分が正しく評価されること”をどこかで諦めながら、
「それでもこの子たちの未来のほうが大事だ」と思い続けることです。

たぶんそれは、ものすごく孤独なことです。
自分は道具のように扱われることがあっても、
心までは誰にも明かせないまま、“結果”だけを求められる。
でも、それでも彼は歩みを止めなかった。

その背中に、読者は何かを感じていたのだと思います。
ひとを照らすランプのように、静かに、でも確かに光を放ちつづける姿に。
「支える者」がいるからこそ、物語は動く。
それをアレンは、ずっと証明してきました。

だからきっと、4位という順位は“主役の貫禄”ではなく、
「あなたのこと、ちゃんと見ていましたよ」という無言の感謝のような気がするのです。

下位キャラクターにも漂う余韻──“気づかれなさ”の価値

人気投票という形式には、どうしても“順位”という現実がつきまといます。
上に名前がある者と、下に名を連ねた者。
でも、だからこそ思うのです──下位に沈んだキャラクターたちにも、確かな余韻があったと。

たとえば、リチャード。
貴族社会の中で自分の立場を保ちつつ、他者との距離感を見極めてきた存在。
物語の表舞台にはあまり出てこないけれど、その分だけ彼の持つ“空気の読む力”や“控えめな忠誠”に、
何とも言えない魅力を感じた読者もいるのではないでしょうか。

また、アンナやエリー、アトラたち。
主要キャラクターの陰で“支える”側にまわった彼女たちは、まるで無音の風のように物語に寄り添っていました。
出番の多さでは測れない“記憶への残り方”が、確かにあったと僕は思います。

人気投票において、名前が呼ばれないことは、けっして“無”ではありません。
それは、“まだ名前を呼ばれていない”だけの存在であり、
そのキャラにとっての物語が、“これから始まるかもしれない”という余白なのです。

そして何より──
誰にも見えないところで誰かを気遣うこと。
目立たなくても、必要なことをそっとやってのけること。
それって、実はすごく難しくて、美しい行為です。

この投票が教えてくれたのは、
“見えないままの優しさ”に、きちんと光を当てた読者がいたということ。
気づかれなかったキャラクターたちの中にも、ちゃんと物語が宿っていたということです。

たぶんそれは、言葉にならないまま、心の底に残っていく感情なんだと思います。
そしてそれこそが、作品の記憶を豊かにしてくれる何よりの力になる。
そう信じています。

この投票は何を映していたのか──“心の居場所”を探す読者たち

人気投票とは、見た目には“数字の結果”です。
でも、その奥にあるものを見つめるとき、僕はふと立ち止まりたくなるのです。
──これは、読者ひとりひとりの“心の居場所”を探す行為だったのではないかと。

誰を選ぶかは、ただの好みや印象で決まるものではありません。
むしろ逆に、「いまの自分が、どんな言葉に救われたいのか」「どんな生き方を見届けたいのか」──
そんな無意識の願いが、あの一票の奥に隠れていた気がします。

リディヤのように、誰にも寄りかからず立ち続けること。
ステラのように、強がりながらも本当は認めてほしいこと。
リリーのように、誰かの役に立つことで、自分の存在を肯定したいこと。
アレンのように、“誰かのため”だけを支えにして歩いていくこと。

どれも「選ばれる理由」ではなくて、
選んだ人がそこに「自分の一部」を見たからこそ、票が入ったのだと思います。

この投票は、キャラクターの勝負ではなく、
「どんな想いに共鳴したか」という静かな対話だった。
そしてそれは──たぶん、読者自身が“今どんな場所に立っているか”を
そっと映し出していたんだと思います。

だからこれは、ただのランキングではなくて。
ひとりひとりの心が、ほんの少し“誰かと重なった”という記録だったのです。

まとめ：その一票は、どんな記憶から生まれたのか

読者が投じた“一票”というのは、数字としてはとても小さなものです。
でもそこには、それぞれの読者が見てきた風景、乗り越えてきた時間、そして心のどこかに残った“誰か”への感情が、確かに宿っていました。

人気投票という形式は、たしかに順位をつけるものです。
けれどこの作品において、その順位は“誰がいちばんすごいか”を示すものではなかった。
むしろ、“誰の生き方に、自分の何かが触れたか”を映す記録だったように思えます。

あなたがもし、あのとき誰かの名前を選んだのだとしたら。
それは、そのキャラクターがあなたの中の“記憶”に触れたからではないでしょうか。

たとえば、あのとき傷ついた日のこと。
誰にも言えなかった不安や、届かなかった言葉。
──その断片が、ふと物語の中の誰かと重なった。
だから、そのキャラに票を入れた。
それは理屈ではなく、もっと静かで、深いところにある選択です。

僕は思うんです。
「好きだから」ではなく、「忘れられなかったから」こそ、その一票は生まれたのだと。
そしてそれが、この作品を“あなたの物語”に変えた一瞬だったのだと。

投票は終わっても、物語は続いていきます。
あの日の一票が、“どんな記憶から生まれたのか”を思い出せる限り、
その物語は、あなたの中にちゃんと残っている。
──それが、この人気投票が残した、いちばん静かで、いちばん確かな証なのだと思います。